あひるの仔に天使の羽根を
 
「泣きそう? 誰が?」


「お前……自覚ないのか?」


そこまで――

桜が自分の感情に鈍感だとは思っていなかった。


こいつは――

感情の発露方法が、

感情自体が理解出来ねえんだ。


だったら尚のこと――


「お前に、判るのかよ。

俺の気持ちが」


俺は、思わず口にしてしまう。


「お前はいつも櫂や玲を庇うけれど、その心は汲み取ろうとするけれど、どうして俺の心は理解しようとしない?」


桜の目が細められた。


「俺が櫂や玲に敵わねえくらい、俺でも十分判りすぎてるさ。

だけど、それでもどうしようもない心が大きく育っちまってんだよッ!!!

上司だとか部下だとか、そんなものが枷となって抑えきれる心なら、俺だってこんなに辛え想いしてないさ。それをどうしてお前は判らねえんだよ!!?」


僅かに――

鉄仮面の表情が崩れたと思う。


「お前――

恋したことがねえのかよ」


「……」


「全ての柵(しがらみ)がどうでもいいと思うくらい、例え俺に返る心がなくても、自分の気持ち伝えたくて仕方がねえ恋、したことねえのかよッ!!?」


俺は思わず怒鳴っちまった。


桜に怒鳴っても仕方がねえ。


判ってはいるけれど、止まらねえ。


「――…好き……

なんだよ、どうしようもなく。

芹霞が好きなんだ……。


消そうと…忘れようとしたさ、俺だって。

判っているさ、俺は身分不相応なくらいは。


だけど――

好きなんだ。


理屈じゃなく……

本当にどうしていいか判らねえ程、

俺が壊れてしまう程、

狂ってしまう程、

好きで好きで仕方がねえんだ。


もう――止まらねえんだよッ!!!」

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