あひるの仔に天使の羽根を
桜は何も言わねえ。
何も言わずに、足下を見るようにして俯いていた。
「想いを伝えるくらい……それくらいはいいだろ、桜。
それくらいしたって――
罰あたんねえだろ?」
そんな時――だ。
「人の身で罪の裁量を測る。
それは傲慢というものだよ、暁の狂犬――」
揶揄するような声が聞こえたのは。
こつん、こつん。
靴音が大きくなり、そして現れたその姿は、
白色の神父服に十字架。
艶ある長い黒髪を後ろで1つに束ね、眼鏡越しに見えるアーモンド型の目。
「こんばんは。初めまして、かな?」
身震いしたのは、そいつが美形だったからじゃねえ。
目が――暗紫色の瞳が、
顔とは裏腹に全然笑ってねえ。
こう裏表がある奴は、厄介な奴に限る。
それは余力残した王者の威圧。
冷酷な世界に生きる者特有の――。
俺は身構えた。
「そんなに怖い顔しなくても、何もしませんよ。
今は――ね」
偽善者のように笑いながら、その男は桜を見た。
「先日はどうも。
やはり、またお会いしましたね、桜くん」
そう男が笑いかけた途端、桜の纏う色が警戒に変わった。