あひるの仔に天使の羽根を
「――…ッッ!!!」
女は俺の脇腹目がけて、拳を突き出してきた。
この女――
思った程、闘い慣れしてねえ。
だけど何だ?
変に余裕ぶってないか?
俺は片手で芹霞を抱き留めるようにして、怪我をしている左手の下腕で、その拳を弾く。
傷を負った上腕部の、何処かの肉が裂けたような感触。
――…BR002……。
その痛みに、思い出したくねえ過去まで蘇る。
どうやら俺の体は、切り刻みに対しては、痛苦の記憶が植え付けられているらしい。
しかも――何だ?
目が……霞む?
女の足と俺の腕が交わる鈍い音。
威力よりも速度が遥かに勝っている。
何だよ、陽斗みたいじゃねえか。
頭が――眩む。
駄目だ……目が。
多分だけど――
俺の腕を切ったあの双月牙――
毒、が塗ってあったんじゃねえか?