あひるの仔に天使の羽根を

・熟考 櫂Side

 櫂Side
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芹霞と――煌と桜の3人が、此処……談話室から出ていくと、

俺は深い溜息をついて、柔らかな子羊皮の黒いソファにどっかりと座り直した。


ひとまず――

桜が居るなら安心だ。



――ああ、話しようぜ?



正直――

焦った。


止めろと、言葉が喉元まで出掛かった。


嫌だ。


煌と行くんじゃない。


俺以外の想いを受けるな。


駄々っ子のように引き留めようとした俺。


桜と遠坂が、煌の桎梏(しっこく)とならねば、

俺は無様な姿を披露していたかもしれない。



――芹霞ちゃあああん!!



玲を見ればテーブルの上に両肘をついて、組んだ手の上に額をつけるように俯いていて。


「……師匠、大丈夫?」


まだ食い続ける遠坂が心配そうに声をかけると、びくっとしたように玲の肩が震え、そして上げられた端麗な顔は、いつものような微笑みを作っていた。


そういう男だ。


絶対、心の内を他人に見せようとしない。


笑顔の裏に全てを隠そうとする。


玲なりに気を揉んでいたにはずなのに。



玲は――


芹霞だけには隠さず見せるのか。



俺にでさえ隠し切れない――


こんなに想い悩んだ、憔悴した表情を。



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