あひるの仔に天使の羽根を
「ここは――"神格領域(ハリス)"だよな?」
それが一番俺が抱く疑問。
「何が、"神格"だ?」
もっと――
特殊な家柄を予想していた。
旭が言う"いきがみさま"が在るというのなら、尚更のこと。
緋狭さんが懸念する事態を彷彿させるような、
もっと忌々しくも神々しい――
人智を越えた不気味さ。
この家の教会のような荘厳さに匹敵する程の、得体の知れぬものを抱いた住人がいるのだと、勝手に俺は予想していた。
だが――
「神どころか――
やけに人間臭い」
そう――
「俺達が居る、欲望に塗れた世界と何1つ変わらないじゃないか。
放蕩息子を巡る後継者争いを勃発しているぞ、あれなら」
そして俗に満ちているというのなら、
「なぜあの息子を次期当主として公表する気になったんだろうな」
紫堂の現次期当主たる俺が、
元次期当主に振るべき話題ではないのだろうけれど。
「……………。
まだ来たばかりだから何ともいえないけれど、
紹介する当主の姿はなかったね。
こんな大事な場面より、優先すべき何があったんだろう?」
「どんな用事かは知らんが、
少なくとも紹介直後に現れない次期当主の代理に、
妹がしゃしゃり出てくるとは来客をなめているよな。
社交的な女帝タイプならまだしも、あんなにおどおどした気弱な少女を前面に出す必要性がわからん。
人がいないならまだしも、いかにも取り仕切るのに適した男も居たというのに」
言ってから、自分で顔を顰めてしまった。
何かが、ひっかかった。
だが、その正体が判らない。