あひるの仔に天使の羽根を
今の俺ではなく、8年前の俺をあいつは見出した。
嬉しそうに、今の俺ではなく――昔の唾棄すべき姿を求めた。
しかも破壊的な凄まじい言葉を選んで、俺を慰めようとしたんだ。
泣いているのではないかと。
情けない俺。
哀れまれている俺。
なあ、芹霞。
俺がお前を愛しいと思って触れる度、身体を強張らせるのは何故だ?
初めは、嬉しい変化だと喜んでいたけれど、
こうにも固まったままでいられれば、不安になってくる。
俺を意識しているのか?
それとも拒んでいるのか?
いまいち、確信がもてない。
自分の判断の正当性に自信がない。
膨れ上がるばかりの不安感。
8年も隠していたことに対し、実の処芹霞はどう思っているだろう。
勝手に事を進め、芹霞の気持ちなど無視をして、それでお前の為に全てを変えたから、今の姿を愛して欲しいなど、今の俺には言えなくて。
そう、芹霞との決定的な繋がりが絶えた今、俺には強みがないから。
芹霞を護る為に、そして手に入れる為に"作った"自信は、
芹霞が"護り"を拒んだあの時点で、脆くも砕け散った。
そして今。
芹霞にとって必要不可欠ではない俺は、
何を拠り所に、彼女の愛を確かめていいか判らない。
"なあ、どうしてお前から俺にキスをした?"
2ヶ月間、聞きたくても聞けなかった俺。
"衝動的"、もしそう言われたら?
言葉が怖い。
だからどうしても芹霞に触れたくなる。
解禁日だから、というのが理由じゃない。
触れて繋がりを…形を求めたくなる。
触れて繋がりを…芹霞に押し付けたくなる。
芹霞を振り向かせたいんだ。
俺を愛して貰いたいんだ。
俺だけを。
結局はいつも堂々巡りで――。