あひるの仔に天使の羽根を
「そういえば、玲。
旭から渡された手帳、お前持ってたよな?」
何かヒントになるだろうか。
「え? ああ、中身はまだ見てないけど」
玲は煌びやかな白銀色のパーティ用バッグの中から、取り出すにはあまりにも不似合いな薄汚れた草色の手帳を取り出した。
「軍事手帳?」
「……らしいね。旧日本軍のものだ。
結構保存状態悪い、ぼろぼろだ。
静かに開かないと、風化しそうだね」
苦笑しながら慎重に頁をめくる玲。
「草書体の非常に達筆、しかも変色していて所々読めない。
これなら子供の旭は完全お手上げだね。
一体誰のだよ、これ。名前の部分は破れてるし。
大部分が虫食い状態だ。全解読するには余程腰据えてかからないといけないよ」
玲は動きを止め、鳶色の瞳を細めた。
「何かが挟まってる……」
かさかさと開けば、黄ばんだ紙に細々とした文字が羅列している。
大きさにしては、A4サイズより一回りくらい大きいか。
下半分には、下方に大きな根が張り巡らされた大木の絵が手書きで荒く描かれ、その横には簡易な裸の人体も描かれている。
「何だろう、植物や医術の説明か? 日本語ではないね、間違いなく。英語でもないし、フランス語、ドイツ語、ラテン語でもない。アルファベットという文字の形をしていないし……櫂は判る?」
玲が困ったように俺を見た。
「俺も判らん。古い言語のような気はするが……アラビア語やヘブライ語に近い気もするが…違うな。判らない限り読めん」
その時、遠坂がぬっとその紙を覗き込んできた。
「これさ……機械語みたいなもんじゃない?」
「え?」
玲が目を細めた。
「師匠の作るプログラム、先に機械語ありきの人工知能ばりばりのものだ。 機械語っていうそもそもの暗号解読が出来なきゃ、ただの数字ばかりのコードだろ?
それも似たようなものじゃない?」
喰ってばかりだがこの女――
結構いい処をつくかもしれない。