あひるの仔に天使の羽根を
ああ、何で俺だけが特別じゃない?
皆と同じなのは嫌なんだ。
俺は、アヒルの子になりたい。
目立って注視される存在になりたい。
美しい白鳥になれなくてもいいから、
今――芹霞にとって特別になれたら。
「……櫂、そろそろ10分だね」
突然声が聞こえて、横を見れば玲だった。
潮風に、鳶色の髪が揺れている。
今まで黙っていたのは、玲なりの思慮だろう。
気配さえ掴めなかったのは、俺の考え事が深かったせいか。
玲だって、真隣で好きな女をこんなに想われて、いい気はしないはずなのに。
いつも通りの微笑みを向けてきた。
「……そうだな」
だから俺は玲に笑いかけて、その肩を叩く。
端麗な顔立ちをした、俺の従兄に。
最近、頓に"男"を見せ、色気を放ちだした…聡明で強くて力もある、だけど俺の影に控える玲。
玲は芹霞を望んでいる。
そんな玲の解放を望んだのは俺だから。
俺は、こいつ以上の存在にならないといけない。