あひるの仔に天使の羽根を


何だ、この猛る心は。


私は何に対して恐れ

何に対して怒り

何に対して焦っている?


この胸の内はどうなっているというんだ?


男装してからというもの、私は自分の心がよく判らない。


「断罪中は、静かにしようね」


出来ない――。


「何の権利があって、煌を!!?」


「そういう権利が認められている地なんですよ」


掴まれた腕を、振り解くことが出来ない。


「咎人は無意識に、罪の裁きを求めている。

だからこそ現れるんです。

"断罪の執行人"はね」



私が。


この私が。


この男を弾くことができない。


直感だ。


私とこの男はレベルが違う。


まるで大人と子供。


それは、まるで五皇に相対したような、

蛇に睨まれた蛙のように。



蛇――。



ぞくっとした恐怖を感じた。



男の瞳には、冷徹な光が浮かび、


だから私は叫ぶ。


「煌逃げろッ!!!」


私でも射竦めるこの男相手に、

あの馬鹿蜜柑が勝てるはずはないけれど。


とにかく、逃げろ。


芹霞さんを連れて逃げろ。


ありったけの感情を願いに変えて。


私は――叫んだ。





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