あひるの仔に天使の羽根を

 
しかし――



「うッ!!?」



秒にも満たぬ僅かな時に、


「静かにしようね?」


残酷な笑い浮かべる男の拳が、私の鳩尾に入り。


ありえないくらいの速度を示し、

ありえないくらいに深く胎内にねじ込まれた男の攻撃に、

私の身体は悲鳴を上げ、鉄味の液体が喉元から飛び出る。


それを見た男は、赤い舌をちらりと見せて己の下唇を舐めた。


それは淫靡というよりはただ悍しく。




そう。


まるで蛇のように。




私の警鐘が鳴り響く。


私だって、その世界では名が知れている。


こんな簡単には殺られない。


こんな簡単に煌も、芹霞さんも殺らせない。



私の矜持に賭けて、私が何とかせねば。



掴まれたままの腕。



藻掻いた私の右腕は、するりと背後に回った男に逆手に決められて。


後方から捻られるように、ぎりぎりと締め上げられる。


私は歯を食いしばり、左足を支点に身体を右回転させて、何とか抜け出そうと、右肘で男の胸元を攻め落とそうとした。


しかし男は、仰け反るように態勢は崩したものの、振り上げた片足の反動で空中で一回転し、着地と同時に私の腕を上方から押さえつける。


床に叩き付けられるその直前で、私は巴投げの要領で、腰を浮かせて片足でたたき上げるように、男の身体を蹴り飛ばした。


舌打ちの音。


弧を描くように宙に舞った男は、故意的に空中に衝撃を逃がし――



「役不足だね」



音もなく――


何事もなかったかのように――


瞬間移動のように私の目の前に現れ、


私の首筋を片手で鷲掴んだ。





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