あひるの仔に天使の羽根を
――どくん。
ねえ、陽斗。
方法無いの?
もう嫌なんだよ。
大好きな人達がいなくなるのは。
「ひと思いに殺してやろう」
――どくん。
女の手から放たれる双月牙。
あたしを庇おうと動いた煌が、突如呻いて傷のある腕を押さえた。
態勢が崩れる煌。
近づく双月牙。
まるでそこからは低速度(スローモーション)のように。
あたしは思い切り煌を突き飛ばす。
双月牙は、慌てて屈んだあたしの頭上を過ぎ、
大きく旋回して――
「!!!」
2つめの双月牙が放たれているのにあたしは気づかなくて。
煌が床に手をつき、短い気合と共に外気功というものを放つ。
外気功というものは、武芸の基本と前に玲くんから聞いたことがあるけれど、平凡女のあたしからすればただの超能力だ。
女は何とも大きな舌打ちして高く跳ね上がり、その攻撃を避け。
煌が立て続けに第二波を放った。
不自然な力に突如蹂躙された地面は、悲鳴のような音を立てて波打ち、飾り棚や装飾品と共に重厚な食卓(テーブル)までもが宙に舞い。
そしてそれは――。
自ずとあたし達を守護する盾となり、双月牙の威力を吸収した。
食卓は立ったあたしの身長を優に超える垂直姿勢となって落下して、僅差で他諸々は周囲の隙間を埋め尽くす。
完全間仕切りとなり、分断された部屋の中で、あたし達はその影に身を潜め、断続的に突き刺さる双月牙と思われる攻撃が途絶えるのを待っていた。