あひるの仔に天使の羽根を
隣の煌の顔色が酷く悪い。
「……ハア、ハア。
――くそッ、よく見えねえ…。
芹霞、俺の処に居るよな?」
「見えてないの!?」
驚くあたしに向けられた褐色の瞳は、焦点があっていないのか苛立たしげに細められる。
「ぼんやりとは見える。
桜は何やってんだよ……。
芹霞……、俺引き留めるから、
だからお前は――」
「やだからね」
あたしは低い声で拒絶した。
「あたしは煌を置いて逃げたりはしないから」
何だか2ヶ月前もこんな台詞を交わした記憶がある。
どうしてこの男、一緒に頑張るということを考えないんだろう。
「それに、ここにいれば皆探しだしてくれるかもしれないし」
不本意だけれど、煌がこんな状態なら、待っていた方がいいかもしれない。
櫂なら、玲くんなら、桜ちゃんなら。
きっと助けてくれる。
それは長年培ってきた"信頼"で。
「だから頑張ろう!!」
煌の力を頼りなく思っているからでは決してない。
あたしはありったけの笑顔で煌を励ました。
「……ハア、ハア」
外界と遮断された中、煌の息遣いだけがやけに大きく聞こえる。
苦しそうで、切なそうで。
酷く心配になった。
「芹霞ぁ……」
泣き出しそうな掠れた声で。
煌が辛そうな顔を向けてきた。
「俺――
変態じゃねえからなあ」
「判っとるわッ!!!」
突然何を言い出すんだ。
そんなことを考えていたのか!?
あたしの言葉は流したのか!?
どんな意味のハアハアか、あたしだって区別はつくっていうの!!