あひるの仔に天使の羽根を
「良かった…いつもの芹霞だ…」
そう軽く笑った煌はあたしの肩に凭れてきた。
身体を支える力もないみたいだ。
あたしは床に倒れ込みそうになるのを、必死に堪える。
巨体が……重い。
「何だかさ……
嫌なことばかりがぐるぐる頭に回って…」
譫言のような煌の声。
「俺…変態じゃねえのによ…
ノーマルなのによ…」
まだこたえているらしい。
仕方がないから、手を伸ばし顔の見えない煌の頭をよしよしと撫でて上げた。
弱った人間を見捨てるほど、あたしは非情じゃない。
しかも相手は、煌だし。
「んー。もっと……」
髪を撫でられるのが気持ちいいのか、煌は実に甘えた声でせがんでくる。
……ワンコだ。
ふわふわな橙色の髪。
コンプレックスの塊である煌は、いつも髪を触るとすぐ怒るのに、今は嫌がる素振りはない。
強面で巨体の甘えっ子。
傍から見れば、何とも不気味な組み合わせ。
でも煌は元々可愛い奴で。
そうだ。
煌が回復したら、暫く"甘えっ子"ネタで弄ってやろう。
あたしに流れる緋狭姉の血が騒ぎ出す。
煌の呟きはまだ続いた。
「なあ……
櫂の処に行くなよ?」
「?」
「行っちまったら俺――
狂い出しそうだ…」
それは本当に消え入りそうな、弱々しい声音で。
「……煌?」
その時、突然煌がぶるぶると震えだした。
「……ハアハア。
何だか凄え寒いな。
冷え込んでいるのかな」
額に手をあてれば、それはもう酷い熱で。
「!!!」
ぐらぐらと目前の食卓が動いた。
向こう側から、そのまま押し倒す気なのか。
やばいって。
煌はあたしに抱きつくようにして、カタカタ震えている。
寒いんだ。
震える煌なんて、今まであたしは見たこともない。
あたしは唇を噛みしめながら、ぐったりとしている煌を抱きしめた。