あひるの仔に天使の羽根を
「そういえば此処は何処なの、由香ちゃん。最初にあたし達が通された部屋じゃないよね?」
「あ、うん。あの部屋は目茶苦茶になったし、荏原さんが他の部屋を案内してくれたんだけれどね」
――お待ち下さい。
「あの須臾嬢が突然現れてさ」
――こちらの棟は危険ですので、どうぞ私の部屋へ。
「ええ? じゃあここは須臾さんの部屋なの?」
「そういうこと。部屋と言うより別棟さ。1回外に出てから、歩いて中に入ったんだ。ご近所さんだったけれどね。まさか須臾嬢にこんな趣味あるとは、人って見かけによらないよなあ」
こんな趣味――少女趣味のことだろうか。
確かにそうだ。
宴で見た限りにおいては、至って清楚な令嬢であったし。
人って見かけによらない。
「だけど、玲も鬘とってるし、櫂もいるのに、此処は男女一緒でいいの?」
大体、棟分けを呈示したのは各務家の執事。
その主がなぜに禁を犯すのか。
「よくはないみたいだけれど。それはさ……」
言い淀んだ由香ちゃん。
何となく――想像ついた。
先刻の、櫂を見るあの須臾の目は。
「一目惚れ、だったから?」
そう口にすると、胸が凄く痛んだ。
由香ちゃんは複雑な表情であたしを見ている。
つまり、肯定だ。
別に、今に越したことではない。
年柄年中、櫂はモテまくっているのをあたし知っている。
異性だけではなく、同性にもモテていることも知っている。
――美少女。
あたしはあの言葉に囚われているらしい。
思った以上の衝撃的な言葉だったらしい。
――一目惚れ。
あたしの見ている前で、それがなされたのか?
――美少女。
ああ、何だか無性に叫び出したくなる。
全身を掻き毟りたくなってくる。
何だろう、この消化不良。