あひるの仔に天使の羽根を
・傍観 玲side
玲Side
**************
この棟の部屋にはベッドは1つしかない。
言わずとも判る、主のベッド。
それは有り難く、煌に使わせている。
何とも少女趣味のベッドだったけれど、僕達が離ればなれになるよりはマシだと思うから。
今、僕達は別れるべきではない。
ここ以外に僕達が一緒に居られないというのなら、此処がどんな場所であれ、我慢して煌や桜の回復を待つしかない。
必要以上に数が多い大きなソファ部屋があったのが幸いして、僕はそこに桜を寝せた。
桜の小柄の身体は、ソファに埋もれるように。
桜はいつでも神経を研ぎ澄まし、夜中の来襲に備えるような奴だから、
こんな震動でも目を開かないのは、本当に異常だ。
もし僕の力が使えたのなら。
こんなに気を揉まずにすんだものを。
ここまで桜も煌も痛い思いをさせなくても良かったものを。
僕の日常が通用しない世界。
せめて。
今まで分の休息が取れれば良いと祈りながら
2人を追い詰めた敵に激しい憤りを感じながら
僕は静かにドアを閉めた。
――一目惚れ、だったから?
芹霞の声に、思わず足を止めた僕。
今まさに、芹霞を残した部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間だった。
堅い声。
細めて開けたドアの隙間から、伺い見えるのは芹霞の浮かない顔。
目覚めた芹霞は――
真っ直ぐに各務須臾を見ていた。
憤っているような、泣いているような。
嫌でも判る。
好きならば判ってしまう。
芹霞が見ているのは櫂。
傍に控えていた僕ではない。
荏原も居たということすら、判っていないに違いない。
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この棟の部屋にはベッドは1つしかない。
言わずとも判る、主のベッド。
それは有り難く、煌に使わせている。
何とも少女趣味のベッドだったけれど、僕達が離ればなれになるよりはマシだと思うから。
今、僕達は別れるべきではない。
ここ以外に僕達が一緒に居られないというのなら、此処がどんな場所であれ、我慢して煌や桜の回復を待つしかない。
必要以上に数が多い大きなソファ部屋があったのが幸いして、僕はそこに桜を寝せた。
桜の小柄の身体は、ソファに埋もれるように。
桜はいつでも神経を研ぎ澄まし、夜中の来襲に備えるような奴だから、
こんな震動でも目を開かないのは、本当に異常だ。
もし僕の力が使えたのなら。
こんなに気を揉まずにすんだものを。
ここまで桜も煌も痛い思いをさせなくても良かったものを。
僕の日常が通用しない世界。
せめて。
今まで分の休息が取れれば良いと祈りながら
2人を追い詰めた敵に激しい憤りを感じながら
僕は静かにドアを閉めた。
――一目惚れ、だったから?
芹霞の声に、思わず足を止めた僕。
今まさに、芹霞を残した部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間だった。
堅い声。
細めて開けたドアの隙間から、伺い見えるのは芹霞の浮かない顔。
目覚めた芹霞は――
真っ直ぐに各務須臾を見ていた。
憤っているような、泣いているような。
嫌でも判る。
好きならば判ってしまう。
芹霞が見ているのは櫂。
傍に控えていた僕ではない。
荏原も居たということすら、判っていないに違いない。