あひるの仔に天使の羽根を

・傍観 玲side

 玲Side
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この棟の部屋にはベッドは1つしかない。


言わずとも判る、主のベッド。


それは有り難く、煌に使わせている。


何とも少女趣味のベッドだったけれど、僕達が離ればなれになるよりはマシだと思うから。


今、僕達は別れるべきではない。


ここ以外に僕達が一緒に居られないというのなら、此処がどんな場所であれ、我慢して煌や桜の回復を待つしかない。


必要以上に数が多い大きなソファ部屋があったのが幸いして、僕はそこに桜を寝せた。


桜の小柄の身体は、ソファに埋もれるように。


桜はいつでも神経を研ぎ澄まし、夜中の来襲に備えるような奴だから、

こんな震動でも目を開かないのは、本当に異常だ。


もし僕の力が使えたのなら。


こんなに気を揉まずにすんだものを。


ここまで桜も煌も痛い思いをさせなくても良かったものを。


僕の日常が通用しない世界。


せめて。


今まで分の休息が取れれば良いと祈りながら

2人を追い詰めた敵に激しい憤りを感じながら

僕は静かにドアを閉めた。



――一目惚れ、だったから?


芹霞の声に、思わず足を止めた僕。


今まさに、芹霞を残した部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間だった。


堅い声。

細めて開けたドアの隙間から、伺い見えるのは芹霞の浮かない顔。



目覚めた芹霞は――

真っ直ぐに各務須臾を見ていた。


憤っているような、泣いているような。



嫌でも判る。


好きならば判ってしまう。


芹霞が見ているのは櫂。


傍に控えていた僕ではない。


荏原も居たということすら、判っていないに違いない。


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