あひるの仔に天使の羽根を


2ヶ月間、病院で2人で過ごしたあの時も、いつかはこんな風に見向きもされなくなってしまうのかと思ったら、酷くやりきれなくなった。


あの時、芹霞の世界には確かに僕が居たのに。


だから僕は、あの時を蘇生させたくて、担当医の顔をしながら、俯く芹霞の、黒目がちの大きな目を覗き込んだ。


――揺れていた。


悔しくなる程、芹霞は動揺している。


涙が零れ堕ちそうなその瞳。



櫂に。


須臾に。


芹霞は嫉妬している。


それが意味する処は何か。


僕はあえて考えることはしなかった。


あまりに怖すぎて。


僕の"気狂い"の血が騒ぎ出すのが判るから。




芹霞が――


各務須臾が櫂に一目惚れをしたということを理解した。



今度は僕の心が跳ねた。



もし芹霞が誤解して。


櫂もあの少女を愛したのだと

そんな風に信じ込んでしまったら。


芹霞は――

櫂への気持ちに気づかぬまま、

心を封印するのではないかと。




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