あひるの仔に天使の羽根を
そう。
いつも彼女は、"紫堂"と"庶民"に線を引くから。
ならば紫堂財閥の次期当主と各務家の令嬢が結ばれるという状況は、少なくとも何の肩書きを持たない芹霞が相手であるよりは、相応しいと……考えるのではないか。
その誤謬の元を大きく拡げれば、芹霞は僕をちゃんと見てくれるようになるのではないかと……そんなことを考えてしまい、自分の愚かさに思わず嗤ってしまった。
本当に狡猾な僕。
本当に滑稽な僕。
僕は煌のように"フェア"を貫き通す自信はまるでない。
――ああ、話しようぜ?
煌のように思い立ったら想いを告げようと、これから告げるのだと周囲に宣言する度胸もなく。
それでも――
限界なんだ。
芹霞を独占したくて仕方が無い。
想いが溢れて仕方が無い。
どんなに"僕"の邪な想いで芹霞を穢そうとも、それで共に居てくれるのならば、僕は喜んで悪魔にでもなってやる。
そんな心さえも生じていて。
どんな方法でもいい。
芹霞を手に入れたい。
どんなに周囲から後ろ指差されても
どんなに僕が世界から孤立しようとも。
例え――櫂から蔑まれようとも。
芹霞が僕を選んでくれるのならば。
そのためであるならば。
芹霞が櫂のものになる前に、僕のものにしたい。
そう――思った。