あひるの仔に天使の羽根を
俺自身、間抜けた声が出たと思う。
「い、いえその……本当は兄と式典に出ることになっていたんですが、きっと兄は出てくれないでしょうから……その……、い、嫌ならいいんです」
赤い顔をして申し出を取り消しながらも、俺の同意を酷く求める潤んだ瞳。
馬鹿なことを言うな。
俺は早く解放されたいんだ。
芹霞の元に行きたいんだ。
しかし――
「公の面前で、櫂と須臾ちゃんが親しくしていれば、"断罪の執行人"とて手出しは出来ない……いい案かもしれない」
冗談かと思って伺い見た玲の表情は、真剣そのもので。
「おい……玲?」
「櫂。選んでくれ。僕はお前の指示に従う。
僕に出ろというのなら仕方が無い。非常事態だと忍ぶよ。
だけどね。
お前が僕と共に式典に出るのなら、この棟では芹霞と由香ちゃんを守れる者はいない。
だけどお前が須臾ちゃんと共に出るのなら、僕は芹霞達を守れる。
お前1人での出席は認めない。はっきりいって危険だ」
玲が――
飛んでもない選択肢を突きつけた。
「櫂。煌も桜もやられたんだ。紫堂の次期当主として、最善の選択をしてくれよ?」
俺は――
「さあ、どうする?」
だから俺は――
……そして苦渋の末に選んだこの選択を、
後々酷く後悔することになろうとは、この時の俺は思ってもみなかった。