あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ玲」
あたしは抱きついてきた由香ちゃんの頭をよしよしと撫でながら、
「由香ちゃん連れて見てきて? 玲だって本当は見たいんでしょう?」
僅かに、鳶色の瞳が揺れた。
やっぱり玲くんだって我慢している。
玲くんは櫂の影に生きると決めてから、表舞台で2人で立つことはしない。
今回、この"約束の地(カナン)"に来たのも、出席者が煌も桜ちゃんも皆が元気で同席すると思ったからに違いない。
状況が変わってしまったから、玲くんは遠慮したんだ。
我慢強い玲くんらしい。
「あたしは此処にいる。煌と桜ちゃんを見ていたい。あたしなら大丈夫よ。少しだけでも、由香ちゃんと見に行ってきて?」
「芹霞。そんな悠長なこと言ってる事態じゃないんだよ? 現に桜も煌も、正体不明の輩に打ちのめされたんだ。君が襲われれば……」
あたしは唇を噛んだ。
あたしは――お荷物なんだ。
だとしたらより一層、
「だったら、何か気配感じたら呼ぶからすぐ帰ってきて?」
そう笑顔で冗談めくしか出来ない。
「あたしを助けに帰ってきて?」
あたしは、玲くんまで縛りたくないから。
「来てくれるでしょう?」
あたしという存在に、玲くんを我慢させたくないから。
「……僕を呼んでくれる?」
突如、玲くんの…真剣故の掠れた声が響いた。