あひるの仔に天使の羽根を
「……ん……」
苦しげな顔。
起こした方がいいのだろうか。
「ないで……」
あたしは迷っていた。
「……いで……ん」
でもこんな顔の桜ちゃんを見ていたくなくて。
少しなら。
「行かないで……」
少しだけなら起こしても――
「芹霞……さん…」
あたし?
片膝をついて揺すろうとしたあたしの手が止まる。
だけど――それきりだった。
桜ちゃんは何事もなかったかのように寝息を立てた。
何か変な夢でも見ているのだろうか。
桜ちゃんの口からあたしの名前が出てくるのは吃驚したけれど、それでもあたし達は決して遠い距離に居た訳じゃないんだと思えば、何だか嬉しくなってくる。
決して他人に心を見せない桜ちゃん。
少しずつあたしにも、心を開いてくれてきたのだろうか。