あひるの仔に天使の羽根を

見れば桜ちゃんも酷い汗で。


桜ちゃんの着替えとか身体を拭くタオルとかを探して部屋を彷徨いた。


荏原さんが着替えは収納棚(クローゼット)に全員分入れてあると言っていたのを思い出し、ようやく行き着いた収納棚(クローゼット)だけの部屋は、四方八方棚ばかりで、見ればきちんと着替えが畳まれてしまわれている。


ここはきっと須臾が使っていたのだろう。


そう思えば、気前よく見ず知らずのあたし達に譲ってくれたものだと、感謝の念は深くなる。


だからといって、櫂とのもやもやは消えないけれど。


それはそれ、これはこれということで。


桜ちゃん用の着替えの場所を見つけて、適当なものを探していると、上から何かがコロリと落ちてきた。


見れば直径3cmくらいの丸い平形の容器で。


蓋を開ければ白いクリームみたいのが入っている。


「何だろ、これ?」


多分、"混沌(カオス)"で着ていた桜ちゃんの服から落ちたものだ。


だとしたら、"混沌(カオス)"で何かを拾ったんだろうか。


その時。


あたしは不意に思い出す。


――ああ。旭から貰ったという軟膏のおかげだな。



櫂が受けた背中の傷、確か旭くんから貰った軟膏でよくなったというのなら。


もしこれがその軟膏で、桜ちゃんが失敬してきたものなら。


「……」


だけどこれが、本当にそれであるという確証はない。



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