あひるの仔に天使の羽根を

・遭遇

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何とか煌は力尽き(決して死んではいないけれど)、天蓋がボロボロの元お姫様ベッドに眠りについた。


あまりの激痛に意識をぶっ飛ばした……だけのような気もしなくはないけれど。


だけど。


心なしか、少しだけ眉間のくっきりとした皺が緩和されたような?


心なしか、呼吸が整ったような?


まだまだ"心なし"の域を出ないけれど、それでも峠は越したような予感はしていた。


外傷の為の軟膏は、毒の根幹治療にはならないのかもしれない。


それでも。


煌の腐りかけた左腕は、少しだけでも生気が戻ったようで。


例えそれが自己満足であっても。


例え煌の限界時間を引き延ばしているだけであったとしても。


それでも何もしないでいるよりは、大きく前進した気がする。


あたしは"何もしない"運命に甘んじるつもりはないから。


煌の寝顔を見ながら、あたしは桜ちゃんと顔を見合わせて、微笑みあった。


2人同時に、安心して。


微笑んだ。


桜ちゃんも……


微笑んだ。



にっこりと。



「…………。

………!!!???」



微笑んだ――!?


何であたしが吃驚しているのか判らないように、大きい目をくりくり動かした桜ちゃんだったけれど、そこは適当に誤魔化した。


先刻見たのは涙。


そして今は微笑。


此処に来てから、桜ちゃんの感情が少しずつはっきりしている気がするのは、あたしの気のせいだろうか。



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