あひるの仔に天使の羽根を
 


「うん、そうしよ? 桜ちゃんだって無理しちゃいけないんだらね」


「桜は薬が効いているので身体は大丈夫です」


確かに、由香ちゃんに制された時の桜ちゃんの姿よりは、元気に見えるけれど、所詮それは薬が見せた幻覚で。


薬の効果が切れて倒れ込むのなら、それは回復したとは言えない。


旭くんの軟膏は外傷には有効かも知れないけれど、それを桜ちゃんが飲んで体内が完治するという類ではないだろう。


それどころか、毒物になってしまいそうだ。


「やっぱり、安静が第一しかないねえ」


あたしはぼやいた。


もしくは――


「玲の力が使えるようになるならばいいのにねえ」


それが一番確実な方法なのだけれど、


「だけどその方法が判らないねえ」


「……」


「桜ちゃん?」


「……」


「どうした?」


俯いてしまった桜ちゃん。


「芹霞さん……」


「ん?」


「玲様を呼び捨てになさるのは、玲様を"男"だと思うからですか?」


「は?」


「だとしたら、呼び捨てにされない私は、"男"ではないのでしょうか」


それは真摯な顔を向けてきて。


「もし玲様が女装しているから呼び捨てにしているというのなら、呼び捨てにされない私は…昔からずっと私は…"男"を捨て切れていなかったということでしょうか」


何だか――難しい選択肢を呈示されてしまった。


「どうして、男だとか女に拘るの?」


そう聞かざるをえない。


「桜ちゃんは、どっちに思われたいの?」


質問を質問で返したあたしに――


「私は…――」


桜ちゃんは言葉を詰まらせた。



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