あひるの仔に天使の羽根を


「すみませ~ん」


呼んでみたが、反応するのは微かな風だけで。


――僕を呼んでくれる?


「玲~、たすけて~」


一応。


言うだけは言ってみたけれど。


……虚しい。


仮に。


何処に居るのと声が返ったとしても、

あたしには誘導できる自信がまるでない。


孤立無援。


試験用に櫂に覚えさせられた四字熟語が思い浮かんだ。


あたしはへなへなと草むらに座り込んでしまった。


ああ――


あたしは鏡の迷宮を先導して抜けた実績があるのに、

頼みの陽斗はうんともすんとも言ってくれない。


ひゅううう~


何とも頼りなげな風があたしの髪を揺らして。


そんな時、


斜め右奥に何かあるのに気づいた。


何かを見つけられればこっちのもの。


あたしは駆けた。


次第に草には花々が咲き乱れ

石畳の道が出来はじめ

弓状(アーチ)型の入り口を潜り拭ければ


「温室!?」


半透明のビニールハウスの形状は、温室そのものだった。



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