あひるの仔に天使の羽根を


足を踏み入れてみる。


瑞々しい花弁を持つ色取り取りの花々。


香しい様々な匂いが入り乱れる。


さすが金持ち、胡蝶蘭まで育てているし。


どの花々も手入れが成されている処を見れば、

此処には人の手が加わえられていると確信する。


ならばいつかは誰かが来ると

ここに居座れば野垂れ死にすることはないと思った時、


「――…ッ!!!」


左の人差し指に何かが掠った。



指の腹から膨れる真紅の滴。


「薔薇……?」


正直、薔薇というものは、もうその香りさえ嗅ぐのを敬遠したい程、関わり合いたくはないけれど、それでも思わず見とれてしまったのはその花弁の色。


――紫。


深い深い紫色。


暗紫色。



こんな色の薔薇が存在すること自体知らなかったあたしは、

思わずその紫の薔薇に魅入ってしまった。


だから――気づかなかったんだ。


薔薇の茂みのその奥の、

睦み合う男女の姿に。



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