あひるの仔に天使の羽根を
男が近づく気配がした。
がさりと、暗紫色の薔薇の茂みが揺れる。
そして男は――
座り込んで動けないあたしの前に姿を現す。
瞬間――
「――…で、
……誰?」
魅かれたのは、神秘的な暗紫色の瞳だった。
否――
その瞳の色は視界の薔薇を映しているだけであって、
よく見れば、薔薇の色よりも仄かに赤い――紅がかった紫。
紅紫(こうし)色――
とでもいうのか。
そして――
「ふうん?
初めて見る顔……でもないね?」
思わず武者震いする程の、蠱惑的な美貌。