あひるの仔に天使の羽根を


男が近づく気配がした。


がさりと、暗紫色の薔薇の茂みが揺れる。



そして男は――


座り込んで動けないあたしの前に姿を現す。



瞬間――



「――…で、

……誰?」



魅かれたのは、神秘的な暗紫色の瞳だった。


否――


その瞳の色は視界の薔薇を映しているだけであって、

よく見れば、薔薇の色よりも仄かに赤い――紅がかった紫。


紅紫(こうし)色――

とでもいうのか。




そして――



「ふうん?

初めて見る顔……でもないね?」



思わず武者震いする程の、蠱惑的な美貌。





< 311 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop