あひるの仔に天使の羽根を

・開会 櫂Side

 櫂Side
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式典が開催されるという会場は、"神格領域(ハリス)"から離れた処にあるというこで、招待客は各々各務が用意した送迎車に乗ることになった。


各務の招待者の1人である俺は、式典の内容もよく知らぬまま、何故か主催者と同席するというおかしな事態に陥り、そしてそれが当然のことのように振る舞う少女の、容貌からは想像つかない強引さに心で舌打ちをしていた。


どうして俺が、須臾と腕など組まねばならんのだ。


それに対して恥じらいがないらしい須臾は、如何に俺が腕を振り払おうとも邪気ない笑顔でまた腕を組んでくる。


威嚇めいて顔を凄ませても、何を勘違いしたのか微笑みが返るだけ。


拒絶、というものが判っていないのか。


そういう環境で育ったのだろうか。


果てなき攻防戦が繰り返される。


更に時間が経つにつれ、俺という存在に慣れたといわんばかりに、接触の程度が酷くなっている気さえする。


過去、紫堂の仕事をしていた俺に、こうして"女"を武器にして、打算目的に寄り添ってきた女達はいる。


だが、須臾はそれとも違う気がした。


打算ではなく、寄り添い方が自然なのだ。


外国における抱擁が挨拶のように、親にじゃれる子供のように。


数日後に16歳を迎える年の割に、このあどけなさが厭にひっかかる。


昨日は確かに凛とした主人の気風もあったのに。


その相反する2つの顔が、俺に更なる警戒心を抱かせた。


芹霞がこの場にいなくてよかったと思う。


それでなくとも芹霞を手に入れたいと動き出す男達が居て、心ならずも俺との不協和音が聞えてしまったこの時期に、いらぬ誤解でこれ以上距離をあけるわけにはいかない。


早く――


芹霞と話をしなければ。



話をしないと。


俺がちゃんと心を伝えないと。



俺の……悪い予感が現実となる前に。


悪い予感……。


具体的にそれは何なのか、恐くて突き詰められない。


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