あひるの仔に天使の羽根を
ただ――
無性に焦る。
取り返しのつかないことになりそうで。
――刹那様に。
俺の知らない処で、何かが動き始めているのを感じているから。
――話しようぜ?
――"玲"、よね?
俺は。
須臾などという女に構ってる暇はない。
早く。
早く帰りたい。
芹霞の側で安心したい。
こんな不安な気持ちはもう嫌だ。
それでも。
「"約束の地(カナン)"にようこそ、紫堂の次期当主」
そう――
各務の現当主に挨拶をされれば、
「お招き頂き、光栄でございます」
『気高き獅子』として対応せねばならなく。
式典会場の控えの間を兼ねた大広間。
そこに燦々と輝き現れた各務家当主。
それは清楚風の須臾の母親とは思えないくらい艶めいた、肉食獣のような女。
顔立ちは目鼻立ちが大きく整い、女王の貫禄がある。
まるで世の男共を傅(かしず)かせるのが当然という、高慢にも思える風体。