あひるの仔に天使の羽根を
 

2ヶ月前。

あいつは外的力に惑わされ、勝手に暴走した挙句、幼馴染たるあたしにちゅうを…あたしの知らないディープな世界のちゅうをやらかして、正気に返ってもそれを覚えているくせに、謝らないとまで開き直る始末。


完全に開き直ってしまうならまだ流せたものの、その後あたしを見る時真っ赤になって変にもじもじすることがあるから、場数を全く踏んでいないあたしが、余裕ぶって平気な顔でいられるはずもなく。


思い出させられる、あの生々しい感触。


その煌がまたしてもあたしに盛り……あの時程ではないにしても、真っ赤な顔が段々怖い程に真剣になりゆく"雄"の変貌は、さすがのあたしでも固唾を呑んだ。


どうしようとか、抵抗しなくちゃとか……考えるまでに至らなかったのは、瞬間的に感じた、焦げ付くようにあたしを見据える双眸のせい。


煌が額にちゅうをやらかしたあの直後、突然櫂は現れた……というか、その時にあたしは初めて櫂に気づいた。


回復したての心臓が口から出るかと思う程、吃驚して――血の気が引いて。


気づかないのは煌ばかりで、射竦められて動かないあたしは、片言で煌に訴えたけれど、全然気づかないばかりか、逆に何を勘違いしたのか更に行動はエスカレートしてきて。


煌を何とかしなくてはとは焦るけど、その様子を不気味に見つめる、櫂の暗澹たる面差しに身動ぎ1つ出来なかった。


煌の切なげに掠れた声音が響いたと同時、その意味を理解する前に櫂の切れ長の目が…急激に温度と色をなくし、その到達点を見る前に意識的に失神しようかとさえ思った中、更にあたしに追い討ちをかけたのは、凄惨な表情をして現れた玲くんで。


殺気を纏った桜ちゃんまで、更に加わった。


そして――。


煌の悲鳴と同時に、あたしは無理やり櫂に連れ出され、ボストンと共に隣室に投げ込まれた。


少し前から感じる気配。


ドアの外に櫂が迎えに来て居る。


あたしは緋狭姉にしては大人し過ぎる、赤い花柄のついた白いワンピースを着て、赤いカーデガンを羽織った。


さすがは腐っても姉、サイズはぴったりだ。


しかも首筋の黒いネックレスと相性もいい。


「……さて」


着替えたけれど、出辛い。


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