あひるの仔に天使の羽根を

・猜疑 玲side

 玲Side
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「うっひょお~。ちょっと~、凄いじゃ、あ~りませんか~ッ!!!」


由香ちゃんが式典会場を見て、可笑しげなイントネーションの声を上げた。


荏原に車で連れられた場所は、"神格領域(ハリス)"と"中間領域(メリス)"の狭間にあるという"境界格闘場(ホロスコロッシアム)"と呼ばれる処だった。


この式典の為に新たに建設されたものだと荏原は言う。


その背の高さは、東京タワーよりはるかに高く。


面積で言えば、東京ドームの3個分くらいはありそうだ。


格闘場……確かに『KANAN』は格闘ゲームだけれど、会場までその雰囲気を徹底する気なのか。


面白い。


僕はこうしたイベントは実は結構好きだったりする。


やるならとことんやりたいタイプだ。


中途半端になるならむしろやりたくない。


妥協もよしとは思わない。


櫂の完璧主義にも通じるものは、紫堂の血筋成せる業なのだろうか。



それにしても――


奇妙なのはその形。



"格闘場"とは想像できないその外貌。


斬新、という言葉に当て嵌めていいのか迷う。



基本は半球型だが、不揃いな大きさの切子面……不等辺四辺形の型面を数多く備えている多面体。


表面は黒曜石にも似た艶やかな漆黒色をしているが、ひんやりとしたこの無機質の材質が一体なんであるかは判らない。


そして詳細不明なその材質の中に無数の緋色の線が走っている。


闇を切り裂くようなおどろおどろしい血色。


圧倒的な存在感を示して建物全体を覆いつくす、忌まわしき2つの色の組み合わせが、底知れぬ不安感を与える。


だからだろうか。


不安定な足場に立っているような、ぐらりとした眩暈がするのは。


妙に……息苦しい。





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