あひるの仔に天使の羽根を
 

「ここの電力の供給源は何処からですか?」



僕は、後方の車の前で控える荏原に声をかける。


「この建物から見れば、丁度反対側にある建物からですね。ここまで大きく異質なものではありませんが、そこから流れる電気がこの地の電力の供給源となっております」


荏原はにこやかに答えた。


供給源を辿れば、僕でもコード変換できる純粋な電気を得られるのではないだろうか。


少なくとも、煌と桜を回復させられる電力を確保しなければ。


折角。


芹霞が僕を信頼して、何か手がかりを掴むように離してくれたのだから。


その間、彼女は危険に怯えることになろうとも、それでもそれに耐えて、そして僕を呼んでくれると約束してくれた。


僕は空手で帰るわけにはいかない。


荏原は続けた。



「この建物……"境界格闘場(ホロスコロッシアム)"の設計も、今から開催される遊戯というものも、彼が全て発案・開発したものです」



「彼って……"KAGAMI"ッ!!?」


由香ちゃんが大きく跳ねて、荏原に食らついた。


「た、確かそのような会社を外界に設立されていたはずですね、元々そういうものに秀でたお人でしたから。確か此処に来る前は有名な科学者だったはずです」



「科学者?」


「ええ。重力子学という……申し訳ございません、私にはその理論は詳しくは判りませんが、何でも危険思想だと学会から追放されたのを、そのご家族共にお救いになったのが、前々当主だと聞いております」


前々当主――各務翁か。



「しかし随分な転身ですね」


科学者から、ゲーム開発者か。


確かに、彼の作るゲーム観は、科学と魔法の融合だ。


決して無関係ではない。



「左様でございますね。ただゲームというものも、元々は商品としてではなく、溺愛する我が子の為におつくりになられたようです」


「お子様のため?」


「はい。何でも紫外線に当たると激痛が走るという難病を抱えているとかで、建物から一切出ることはできませんでしたので。どうしても内部で遊べる玩具が必要だったのでしょうね」



荏原は哀れんだ顔をした。



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