あひるの仔に天使の羽根を
「ご家族も一緒にお住まいに?」
「詳細は存じ上げません。あの方は外界における収益の殆どを"約束の地(カナン)"維持費に回す代わりに、私共の介入を拒まれましたので」
金も名誉も捨てて、ここに住み込んだ動機は何だろう。
苦境を救った各務翁への恩情か?
「前々当主とかなり親しかった間柄だったんですか?」
「どうでしょう? 前々当主もかなりの偏屈……いえ、失礼。かなり独創的な方でしたから、外界で何らかの接点があったのかも知れません。私はここに来てからの執事を務めさせて頂いておりますので、外界でのことは……」
荏原は困ったように笑った。
「今回の式典による外部公開は、彼の案で?」
「いいえ。全ては現当主…樒様のご決定でございます。この地にて樒様の命令は絶対的。"生き神様"と並ぶ尊い方でございます」
「来る!!? 今日は来るのッ!!!?」
胸倉掴んでゆさゆさ上下に揺さぶり始めた由香ちゃんに、荏原は若干白目を剥き始めた。
僕は苦笑しながら、由香ちゃんを宥める。
「師匠~ッ!!! なんでそんなに平然としているんだよ~ッ!!!?」
じとっとした眼差しまで頂いてしまった。
「も、申し訳ございません。ご出席されるかどうかはご当主なら存じ上げているかとは思いますが、私めは判り兼ねます……」
「ね、ね、ね、じゃ荏原さん。彼はどんな感じの人!!? 眼鏡なんかかけてクールな理知的な人? それともでぶっとしたオタク!!? ボク、臭っても剥げてても脂ぎっててもいいや。知っているんでしょ、荏原さんッ!!!どんな人なのッ!!?」
「は、はい。私の記憶では――どちらかといえば神経質な、気難しい方で」
「ふんふん」
「お子様を非常に可愛がり」
「ふんふん」
「今年で御年82歳となられる方です」
「は、82~ッ!!!?」
さすがの由香ちゃんも驚いて目を回した。