あひるの仔に天使の羽根を
「82歳で、"KAGAMI"……『KANAN』の開発者!!?」
「左様で」
イメージが狂わせられたのだろう。
「なんてこったい、完全盲点だ。ボクはよぼよぼ爺ちゃんの斬新な格闘ワールドを、ブラボーと賞賛してきたのかい」
由香ちゃんは頭を抱えていた。
確かに――
高齢であのゲームには結びつかない。
それでも会社として成り立っているのなら、若い社員が動いているのかもしれない。
そう由香ちゃんを宥めた僕。
「そうだよね、若い世代だって、早くからうんとうんと頑張れば、あの神の領域に行き着けないことないよね」
荏原が驚いた顔をして僕達に言った。
「そこまであの方の作ったものは凄いのですか。確かに"約束の地(カナン)"の全ての電気系統を管理されているのはあの方の…刹那様のお力ですが」
せつな。
――刹那様に。
僕は不意に旭の言葉を思い出した。
芹霞と関係ありそうなことを言っていた旭。
そして妙に落ち着かなくなった芹霞と、それを不安げに見つめていた櫂。
刹那、という存在は、芹霞と櫂の過去にはいない……否、いてはいけない存在のように。
芹霞が、仮に櫂と出会う前の……13年前以前に刹那という男と会っているのなら、単純計算で言っても、芹霞との出会いは60歳はとうに過ぎているということになる。
――偽りない心で、またあのヒトを愛してあげてください。
刹那、違いなのか。
それにしても。
"また"
芹霞に愛されたいと願う僕の心は嫉妬に痛む。
過去どんなことがあったにしても、現在は違うのだと。
現在は僕がいるのだと、"僕"が自己主張をはじめて。
もし。
芹霞が、櫂でもなく煌でもなく僕でもない、僕にとっては見ず知らずの振って沸いたような男に、横から掻っ攫われたとしたら。
僕は平気でなどいられない。