あひるの仔に天使の羽根を


「……他に、"刹那"さんって居ますか?」


知らず知らずに、顔が強張る。


「………。

――はい」


荏原もまた、強張った顔で肯定する。



どくん。




僕の心臓が、嫌な……乱れた鼓動を伝えてくる。



「ですが、その御名はみだりに口に出されぬよう」



忠告のようなその言葉に、僕は目を細める。



「断罪の対象となりますので」



「断罪?」


「はい。禁句となっております」



それ以上、荏原は口を開かなかった。



「じゃあさ、おじいちゃん刹那はいいの?」


由香ちゃんが聞くと、荏原は頷いた。


「同じ刹那でも、扱いが違うんだねえ」


彼女は苦笑した。



断罪の対象であるという刹那。


この"約束の地(カナン)"に居る刹那。


そして芹霞にも関係があるというのなら。



そんな不安愁訴たる存在など



――またあのヒトを愛してあげてください。



僕はいらない。




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