あひるの仔に天使の羽根を
 

「何を?」


「部屋さ。用意されていた服を見れば、事前に誰が割り当てられるかおおよそ推測が出来ていたと考えられる。事前情報があって、どうして僕が"女"だ?」


「確かに、師匠の部屋、下着まで女物揃っていたよね」


「だとしたら、僕が女装をした時点で、各務に情報が入ったとしか考えられないんだ。僕が女装したのを見ていた外部の者……」


「……はあ。そういうことかい。でも"彼女"が何でまた?」


由香ちゃんは、頭の回転が速い子だ。


「各務と、あの刺客の女は無関係ではないのかもな」


「……神崎、大丈夫かな」


ぼそり。


由香ちゃんが呟いた。


「"聖痕(スティグマ)の巫子"の威力を信じるしかないね。だけど出来るだけ早く戻ろう。ここはまだ他に何が潜んでいるか判らないし」


そして僕達は、"女"の扉を開けて足を踏み出そうとした。




――その時。




「…ちょっと待って、由香ちゃん」




僕は彼女の腕を引き、視界の隅にあった、僕ぐらいの背の高さがある大きな観葉植物の裏に隠れた。



気配――だ。


何かの気配がした。



「やめろおおおおお」



絶叫に近い声が次第に近づいてくる。



見ると。



黄色い神父服をきた男が、白い布を纏った若い…少年を引き摺っていた。


能面のような無表情の男。


泣き叫ぶ、まだ10代と思われる少年。



「いやだいやだいやだ!!!」



神父服の男は歩く速度を落さず、男性専用の扉の方へ赴くと、中に誘う扉が開く。


少年は抵抗して、その扉の奥へ行くことを拒んでいるようだ。


何を……する気だ。


何を……怖がっている。



少年の怯えは相当のもので。


尋常ではない惧(おそ)れを僕は感じ取って。


だから僕は――



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