あひるの仔に天使の羽根を
「"Beelzebub"……」
ベルゼブブ。
「え、何だい師匠。蠅の王がどうしたって?」
やはり由香ちゃんは知っている。
ゲームや漫画によく登場する、メジャー過ぎる悪魔というものもあるけれど。
「あの少年の背中に押されていた烙印。
"ベルゼブブ"と書いてあったんだ」
「ふえ?
悪魔偏執狂?
さすがにボク、ベル様のコスプレだってしたくないなあ」
由香ちゃんは、頬をぽりぽりと掻いた。
――全て嘘だったんだッ!!!
多分、あの少年は僕達と同じ外界の者で。
僕達と同じく『KANAN』のゲームに誘われ、
そして僕達が成し得なかった抽選の当選者なのだろう。
当選者は、2週間『KANAN』をこの地で先行体験出来る。
――全て嘘だったんだッ!!!
嘘とは何だ?
――僕を食うつもりなんだろう!?
一体、彼は僕達の何に怯えていたんだ?
その時、ピーという何かの機械音が会場に鳴り響いた。
それは始まりの合図のようで。
「師匠、行こう」
僕達は、女性専用の扉を開けた。