あひるの仔に天使の羽根を

ひとまず、僕達は式典を見れる場所を探すために移動した。


座席は埋まっているから、立ち見でも仕方が無い。


僕の身長ではどこでも構わないけれど、背の低い由香ちゃんにとっては、場所の選定はかなり大事なことのようで、ようやく彼女が満足した場所に行き着けば、


「ふう……ここならボクでも……って、師匠、あそこッ!!!」


斜め上を指差した由香ちゃんに促されるように顔を向けた僕は、


「うわ、来賓席の近くだ」


小さく舌打ちをした。


芹霞を引き合いにして、須臾と行くか僕と行くかを突きつけておいて、僕までここに居るということを知ったら、あいつはどう出るだろうか。


普段の櫂なら、紫堂の次期当主としての最適な判断をするのだろうけれど、芹霞が関われば、周りが見えなくなってしまうから。


ちらりと盗み見る櫂は。


僕にも気づいていないようで。


珍しい。


あいつが僕の気配すら気づかないなんて。


櫂は、本当に面白くなさそうに憮然としていて。


腕に触る須臾を嫌がっているようだ。


それは付き合い長い僕だから判ることかも知れないけれど。


かなり苛立っている。


早く帰りたがっている。


理由なんて簡単だ。


芹霞とのことを思い悩んでいるに違いない。


こんなにも判りやすい表情を見せる櫂に、僕は笑いを噛み殺す。


隣に居るのに、須臾は櫂の様子に気づいていないようだ。



或る意味――


芹霞より、鈍感だ。



須臾は友禅の赤い着物を着ていて。


帯留めが証明に反射してきらりと光った。


五百円玉くらいの大きさがあるあれは……宝石?


いつもは宝飾品など興味がないのに、なぜか須臾の帯留めの石に注視してしまった。


その石が、金緑石(アレキサンドライト)のように見えたから。


光によって、色を変える稀石のように思えたから。




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