あひるの仔に天使の羽根を
見開かれる、切れ長の目。
やばい。
櫂。
頼むから――
競技場からは歓声。
頼むから――
飛び降りてくれるなよ?
櫂の顔は、蒼白で。
やはり僕のように挙動不審な動作で。
そして僕は。
櫂が首につけている、芹霞と同じ血染め石を手で握っているのに気づく。
櫂も。
櫂も感じたのか。
「――…ッ!!」
芹霞は、僕を呼ぶと。
櫂ではなく、僕を呼ぶと。
そう言っていたのに。
櫂。
お前は須臾の横にいろよ。
芹霞は僕が居るから。
血染め石。
僕を弾く、8年間の櫂と芹霞の絆。
早くそんなもの、棄ててしまえ。
再び、競技場から歓声。
今まさに櫂が動こうとしていたその瞬間。
大きな歓声で会場が沸いたその瞬間。
僕は見たんだ。
櫂の背後に、あの女――
白い修道服を着たあの女が居たのを。