あひるの仔に天使の羽根を

「何? 恋人に助けでも求めた?」



間近に迫る、破滅的な微笑み。


堕天使の微笑。



「いいえ。謝ったの。


彼の力を頼らない、あたしでごめんって」



「……は?」



一瞬――


男が怪訝な顔をして動きを止めたその一瞬。




「本当はこんなこと、したくないくせに!!」



――バチンッ!!



破裂音。



あたしの平手打ちが、男の頬に決まった。



「悲しい、とても悲しいよ! あんたを見てると、その笑い見ていると、無性に悲しくなる。あんたの瞳に光が灯っていない。あたしの姿は擦り抜けてしまっている!あんたが感じているのは虚無、ただそれだけなんて、そんなの本当に悲し過ぎるわ!」


そう。


それがこの男に感じた、純粋な気持ちで。


「ただ流される毎日は空しくないの? あんたは綺麗なのに。こんなに綺麗な瞳をしているのに。どうしてその美しさを曇らせるの?」


男は微動だにしない。


怒りを堪えているわけでもなく。

笑いを堪えているわけでもなく。


――何もない。


無反応。


空っぽ。


虚しすぎる。



あたしの声は届いていないのか。



男は、やがて薄い笑いを作る。



「……オレを初めて平手打ちした勇敢な君に、1つだけ本当のことを教えて上げるよ」



「……え?」



「オレはこの肉体が嫌いだ。


オレはこの瞳が嫌いだ。


オレは破滅を望んでいる」



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