あひるの仔に天使の羽根を
 

一瞬だけ――


瑠璃色の瞳に光が宿り、赤く見えた。


だけど本当にそれは刹那のことで。


それがどんな感情によって生じたものかは、読み取れなかった。


男はあたしの上に跨ったまま、手を伸ばして暗紫色の薔薇を一輪手折った。



「この薔薇はね、枯れる事なく永遠に咲き続けられるんだ。この色にしてもすべて人工的に作られたものなんだよ。

……この薔薇、この薔薇はなぜ美しいのか君には判るかい?」


「……?」




「それは荊棘があるからだ」




男が瞬間的に薔薇を握り潰した。




「荊棘は――

人間を狂わす原罪だ」




その手から血が滴となって地面に滴り落ちる。


そして――


少しだけ当惑したような表情を見せて、

上からあたしを見つめた。


「君は何故オレに興味を持ったの? 何故今、オレの前に現れたの?誰かから強制されたの?」


「強制? 意味が判らないんだけど?」


「……質問を変えるよ。何故君はオレと寝たいと思わないの?」


「どうしてあんたは、寝ようとするの?」


「切り返すねえ。訊いてるのはオレの方なのに」


「あたしの知り合いに、かなりモテる男達がいるの。だから多分、美しいっていうものに、免疫ついちゃってるからじゃないかな」


「恋人?」



「まさかあ。そんなの彼らに失礼よ。

……そういえばあんたの名前、聞いてなかったわ。名前、何ていうの?」


「聞いても無駄だと思うよ」


「どうして?」


「オレはもう、君とは会わないから」



< 347 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop