あひるの仔に天使の羽根を
一瞬だけ――
瑠璃色の瞳に光が宿り、赤く見えた。
だけど本当にそれは刹那のことで。
それがどんな感情によって生じたものかは、読み取れなかった。
男はあたしの上に跨ったまま、手を伸ばして暗紫色の薔薇を一輪手折った。
「この薔薇はね、枯れる事なく永遠に咲き続けられるんだ。この色にしてもすべて人工的に作られたものなんだよ。
……この薔薇、この薔薇はなぜ美しいのか君には判るかい?」
「……?」
「それは荊棘があるからだ」
男が瞬間的に薔薇を握り潰した。
「荊棘は――
人間を狂わす原罪だ」
その手から血が滴となって地面に滴り落ちる。
そして――
少しだけ当惑したような表情を見せて、
上からあたしを見つめた。
「君は何故オレに興味を持ったの? 何故今、オレの前に現れたの?誰かから強制されたの?」
「強制? 意味が判らないんだけど?」
「……質問を変えるよ。何故君はオレと寝たいと思わないの?」
「どうしてあんたは、寝ようとするの?」
「切り返すねえ。訊いてるのはオレの方なのに」
「あたしの知り合いに、かなりモテる男達がいるの。だから多分、美しいっていうものに、免疫ついちゃってるからじゃないかな」
「恋人?」
「まさかあ。そんなの彼らに失礼よ。
……そういえばあんたの名前、聞いてなかったわ。名前、何ていうの?」
「聞いても無駄だと思うよ」
「どうして?」
「オレはもう、君とは会わないから」