あひるの仔に天使の羽根を
艶やかな笑みは拒絶の表し。
これ以上の無断の走査を拒む、頑なな拒否。
それでも――
「冷たいな。あたしあんたを気に入ったのに」
「そういうこと、簡単にいわない方がいい。どんな男だか判ってないくせに」
「教えてくれないんじゃないの」
「オレは干渉されたくないんだ、誰にでも。誰とも話したくない」
それでも――
「君と会話したのはただの気紛れ、ただの暇潰しさ。だけどその茶番ももう終了だ。襲われたくないなら……帰ってくれ」
「簡単に帰れって言ってもね…帰れない理由もあるのよ、色々と」
あたしは大きく溜息をついた。
「……?」
「迷ったのよ。どう行けばいいのか判らない」
本当に間抜けだ。
「は?」
仮にも。
あたしを組み敷いている男に、教えを請うなど。
「お願い、須臾さんの棟への帰り道、教えてよ」
「須臾?」
男は僅かに目を細めた。
「あんたの妹サンのご厚意よ」
「ああ、あっちの方ね」
男が意味ありげな笑いを見せた時。
風が走る――
そう思った瞬間、あたしの上の体重がなくなり、
「芹霞、大丈夫かッ!!?」
掠れきった玲瓏な声が、聞こえた。
あたしを見下ろしているのは、瑠璃色の瞳ではなく、
見慣れた漆黒色の瞳。