あひるの仔に天使の羽根を
「櫂!!?」
あたしは吃驚して。
何故に突然櫂が此処に?
だって櫂は式典に出席しているはずで。
――須臾と。
むかむかしてきた。
櫂はあたしに手を伸ばして、あたしを助け起こすと、強く抱き締めた。
「芹霞……俺……」
震えている。
息を切らせている。
「俺……間に合ったか?
間に合ったよな!?」
何が、と問うほど野暮でもなく。
「あ、ん、まあ」
あたしの心の中では、まだ"むかむか"が暴れていて。
何だか櫂の顔が見れなくて。
思わず逸らした顔を、頬を掴んだ櫂が無理矢理正面に向かせる。
「死ぬ気で走ってきたんだぞ、俺はッ!!!」
櫂の漆黒の瞳が、衝動に激しく揺れていて。
本気、だということが判った。
本気であたしは責められている。
「いい加減……
こっちを見ろ、芹霞ッ!!!」
どうして、そこまで怒られるんだろう。
少しむっとしてしまった。
「助けてくれてありがとう。もういいよ、須臾さんとこ戻って?」
笑顔を向けて立ち上がった時、
「……んだよ」
櫂が睨み付ける様にあたしを見た。
「何だよ、それはッ!!!」
射竦めるような鋭い眼差しに。
「何でそんな顔で俺を見るんだよッッ!!!」
傷ついたような端正な顔に。
あたしはびくりとしてしまった。
恐いと思ってしまった。
櫂に。
12年の付き合いもある櫂に。