あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ、せり」
びくん。
――せり。
「面白いもの見せてくれた礼に、名乗ってやるよ。
オレは、各務久遠(くおん)。
せり。せいぜい、永遠掲げてママゴト楽しめば?
蛇達が集う、聖なる彼の地でさ。
もう遭うことも無いだろうけど、お元気で」
そして男は手をひらひらと振りながら、振り返りもせず出て行った。
残されたのは、
あたしと、櫂。
――ねえ、せり。
「さあ、櫂。戻ろう」
あたしは涙を堪えて、笑顔を作る。
考えてはいけない気がした。
こんなにも不安に苛む理由を。
聞いてはいけない気がした。
櫂が何故そんな凄惨な顔をしているのかを。
「……"せり"」
不意に、櫂の口から漏れた言葉。
あたしは反射的に不快に顔を顰めた。
「櫂、その呼び方はやめてって、昔言ったよね?」
あたしだって判っている。
「芹霞……どうして…」
否――
あたしが一番判っていない。
「どうして、あの男には拒まないんだ?」