あひるの仔に天使の羽根を
 

「ねえ、せり」




びくん。



――せり。





「面白いもの見せてくれた礼に、名乗ってやるよ。

オレは、各務久遠(くおん)。

せり。せいぜい、永遠掲げてママゴト楽しめば?

蛇達が集う、聖なる彼の地でさ。


もう遭うことも無いだろうけど、お元気で」



そして男は手をひらひらと振りながら、振り返りもせず出て行った。




残されたのは、



あたしと、櫂。





――ねえ、せり。




「さあ、櫂。戻ろう」



あたしは涙を堪えて、笑顔を作る。



考えてはいけない気がした。



こんなにも不安に苛む理由を。



聞いてはいけない気がした。



櫂が何故そんな凄惨な顔をしているのかを。




「……"せり"」



不意に、櫂の口から漏れた言葉。


あたしは反射的に不快に顔を顰めた。



「櫂、その呼び方はやめてって、昔言ったよね?」



あたしだって判っている。




「芹霞……どうして…」


否――



あたしが一番判っていない。



「どうして、あの男には拒まないんだ?」



< 353 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop