あひるの仔に天使の羽根を
「駄目……だ」
離れようとしたあたしの腕を、櫂は掴んで引き寄せる。
「芹霞、それだけは駄目だッ!!!
"ちょっと"でも"ずっと"でも……俺は離れない、離れたくないッ!!!
何故だよ!? どうして――
んなこと言い出すんだよ!!?」
いつもなら。
ふわりと漂ってくる心休まるシトラスの香りも、薔薇の香りに消されて。
薔薇だけではない。
同時に匂い立つのは甘い香り。
あたしはこの匂いの元を知っている。
煌が寝てるベッドから匂っていたのを知っている。
櫂は――
こんなに近くに須臾と居たの?
あたしがあげたシトラスの香水を消し去るくらいの至近距離で、須臾と密着していたの?
それを――
櫂が赦していたの?
そう思ったら。
ずきん。
凄く胸の奥が痛んだ。
指先から段々と温度が消えていく。
あたしは――
櫂の抱擁を拒んで、その胸を両手で突き飛ばした。
もう、櫂からあの子の匂いを嗅ぎたくはない。
だからあたしは、薔薇の匂いを求めるように、櫂から顔を背ける。