あひるの仔に天使の羽根を


「俺には、何が足りない?」



ぎらついた、激しい熱を持った漆黒の瞳。



「なあ――…、

どうすればお前は俺だけのものになる?」




掠れた声に――あたしの身は固まり、鼓動が早くなる。


惹きこまれそうに揺らめき立つ、櫂の色気を拒むのが精一杯で。


そうでなければ、あたしがあたしではいられなくなる気がして。


ぐらぐら、ぐらぐら。


足元が揺れる。


揺れているのは、風に煽られている波のせい?



「なあ……。


いい加減、もう気づけよ…」



切なげなその顔は、本当に苦しそうで。


眉間に皺を寄せたそんな苦悶の表情も、櫂がすれば艶やかな色気に満ちていて。


思わず横を向いたあたしの顔を、櫂は無理やり片手で戻した。


櫂が真剣に見つめる、その先に。



「気づいて……くれよ」



掠れきった、吐息のような囁き。


息を呑む程、真っ直ぐすぎる綺麗な瞳。


あたしをその濡れた闇色の檻に閉じ込めようとする。


逃れきれないその檻に、あたしは捕まりそうになる。


どくどくどくどく…。


心臓が苦しい。



「芹霞、俺は……」



陽斗――苦しいよ。



「ずっと……お前が……」



陽斗――!!


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