あひるの仔に天使の羽根を
「嫌だから。
俺はそんなの認めない」
こんなに聞き分けの無い男だったかな、櫂は。
何だか本当の櫂の姿が見えなくて。
本当の櫂ってどんなだっけ?
ごめん、もう何が何だか判らないや。
だけど。
いつも余裕で、いつも泰然としていて?
こんなにあたしに縋ってくるのは、らしくないよ?
そう笑って言ったら、櫂は苦痛に満ちた顔をした。
そして両手拳に力を入れて握りしめ、
少しの間、天井を振り仰いだ。
孤高の気高き獅子。
その空気は他者を撥ね付ける程の緊張感を纏い。
そして、憂いの含んだ目はあたしに合わせられた。
泣きそうで、
苦しそうで、
だけど幾分決意めいた固い面差し。
「――…きだ」
「え?」
「好き――…なんだ」
微かに震えて、掠れきった声音。
痛いくらい真っ直ぐな、真剣な眼差し。
「ずっとずっと――
俺はお前が好きだ。
……芹霞」