あひるの仔に天使の羽根を
 

私の――失態だった。


私の方が知識も経験もあるのに、私は馬鹿を守れなかった。


私は、自分の力を過信しすぎていたのか。


過去、呪詛をかけられた玲様が、心臓発作を起こして芹霞さんを守れなかった時、玲様は原因を自分の自惚れだったと自省していたことを思い出す。


そして玲様は変わった。


強くなった。


私は――どうだ?


こんな処で寝ている暇があるのだろうか?


私に唾棄すべき"弱さ"があるのなら、少しでも肉体を鍛えて技を磨き、同じ過ちを繰り返さないようにすべきではないのだろうか。


――桜くん。


このまま、あの男をのさばらせてはいけない。


あの男は――


いずれ、櫂様や玲様、芹霞さんまでも牙を剥く危険があるのだから。


早急に、対処を考えねばならない。


部屋は静まり返っていて。


物音1つせず。


かといって怪しげな気配が混ざっているわけでもなく。


扉を開ければ、ピンク色に包まれた乙女の世界。


その中心に馬鹿蜜柑は眠る。


なんて不似合いな、嗤いたくなる風景。


覗き込んだその精悍な顔は、幾分穏やかで寝息も整っている。


私は煌の左腕を取った。


重い。


何て言う重さ。


煌の手首に落ちてきたのは腕環。


緋狭様が渡した、紅皇の守護石がついた装飾品。


10kg、20kgの重さではない。


こんな枷に縛られていて、あれだけ動き回れるのか。


< 366 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop