あひるの仔に天使の羽根を
私の――失態だった。
私の方が知識も経験もあるのに、私は馬鹿を守れなかった。
私は、自分の力を過信しすぎていたのか。
過去、呪詛をかけられた玲様が、心臓発作を起こして芹霞さんを守れなかった時、玲様は原因を自分の自惚れだったと自省していたことを思い出す。
そして玲様は変わった。
強くなった。
私は――どうだ?
こんな処で寝ている暇があるのだろうか?
私に唾棄すべき"弱さ"があるのなら、少しでも肉体を鍛えて技を磨き、同じ過ちを繰り返さないようにすべきではないのだろうか。
――桜くん。
このまま、あの男をのさばらせてはいけない。
あの男は――
いずれ、櫂様や玲様、芹霞さんまでも牙を剥く危険があるのだから。
早急に、対処を考えねばならない。
部屋は静まり返っていて。
物音1つせず。
かといって怪しげな気配が混ざっているわけでもなく。
扉を開ければ、ピンク色に包まれた乙女の世界。
その中心に馬鹿蜜柑は眠る。
なんて不似合いな、嗤いたくなる風景。
覗き込んだその精悍な顔は、幾分穏やかで寝息も整っている。
私は煌の左腕を取った。
重い。
何て言う重さ。
煌の手首に落ちてきたのは腕環。
緋狭様が渡した、紅皇の守護石がついた装飾品。
10kg、20kgの重さではない。
こんな枷に縛られていて、あれだけ動き回れるのか。