あひるの仔に天使の羽根を


思わず目を瞑ったあたしに、櫂は躊躇うように言葉を切り、


そして再び口を動かした時――。



船体が突如激しく揺れて、立って居られなくなった。



揺さぶられる船体。



「――ちッ!!!」



激しい舌打ちの音を響かせ片手であたしを抱き留めると、途端に櫂は緑色の光に包まれた。


不自然な風が大きく渦巻く。


力だ。


紫堂の、櫂だけが持つ風の力。


途端、通路の向こうから、突き刺すような何かの気配を感じた。



殺気――!?



あたしがそれに気づくより早く、櫂の光は球状に大きく広がり、あたし達を包み込んだ。


結界、だ。


「!!!」


何かが風を切って飛来したが、櫂の結界の壁がそれを弾いた。


軌道が逸れたそれはブーメランのように再び通路の奥へと戻り、またこちらに戻ってきた。


以前の速度を更に速くして。


それは今度は、櫂の結界に弾かれることなく…突き刺すように食い込んだ。


小振りの刃物、だ。


2つの三日月が背中合わせになっているような不思議な形。


「双月牙…?」



櫂が呟いた時、更にもう1つの武器が……櫂が呟いた"双月牙"が2つになって、櫂の結界に突き刺さる。



「……吸収、だと?」


櫂が驚いた声を上げた。


結界が、双月牙によって小さく縮小しているようにも思える。


櫂はまた舌打ちして、片手を双月牙に向けた。


結界から攻撃に転じ、吹き飛ばす気らしい。


その瞬間を狙い、更に3つめの双月牙が放たれた。


勢いは殺気を乗せて倍増し、こちらに向かってくる。


櫂がゆらりと動くのと、何かが横切るのとが同時だった。




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