あひるの仔に天使の羽根を
「動けるなら動くよ。
動けないから、頼んでるんじゃねえか。
俺のこの切ねえ心をお前は判ってくれるかと……」
「それが人にものを頼む態度か、てめえ!!! 何が"切ない"だ!!! 今まで花畑の中で芹霞さんと手を繋いで、ルンルン気分だったんだろうが!!!」
すると――
「な、何で、お前それを……!!!」
やっぱり。
単純馬鹿蜜柑の頭は、やっぱり腐りきっている。
私は溜息をつくしかない。
それでも。
出来の悪い馬鹿蜜柑が、動けなくなったのは私のせいでもあるから。
不承不承だけれど、芹霞さんを呼びに行くことにした。
こんな茶番は、今回限りだ。
馬鹿の欲望に、私が振り回されるなんて。
立ち上がり、煌に背を向けてドアに向かって歩き始めた時。
「なあ――お前…
聞こえなかった?
俺が呼んだの……」
そんな声に、思わず私は振り返った。
依然けだるげではあるけれど、悲しみ湛えた褐色の瞳があって。
「俺さ、正直やばくて……お前呼んだんだ」
聞こえなかった。
第一その頃の私は――。
「……てめえは、『逃げろ』って叫んだのは聞いたのかよ」
まるで責任を転嫁するかのように。
「……幻聴は一応」
"幻聴"
私の叫びが、幻聴!!!?
「もう……絶対言わねえッ!!!」
私の拳が、矛先を求めてふるふる震える。
必死に抑えた。
……私の腹部の為に。
放っておこう、身体に毒だ。
「……来れなかっただけだよな?」
ドアに手をかけた時、また煌の声がした。
「あの……お前が大事にしていたテディベアみたいに……俺を切り捨てる気だったわけじゃねえよな?」
それはいつになく堅い声で。