あひるの仔に天使の羽根を
 

「芹霞さん……?」


薬が効いてきたようで、痛みも次第に落ち着き始めている。


「芹霞さん……?」


何度も呼んだみたけれども反応はなく。


どの部屋にもいない。


どういうことだ?


少なくとも傍に重症の煌が居て。


外にふらふら散歩するような芹霞さんではない。


だとしたら――?


――桜くん。



私の身体に緊張感が走る。



「――煌」


一応、知らせておく。


「あ?」


まだおかしな位置で寝転んでいる。


位置を正すのも億劫なのか。



その時――


脇に置かれた洗面器が目に入る。


水がたっぷりと張ってある。


手を入れてみれば、まだ冷たい。


そして――水差しがなかった。


記憶では、洗面器の隣にあった筈だ。


部屋を回って思ったことだが、此処には安全を保証できる飲料水を確保出来る場所がない。


もしかして、それを求めに外に出たのか。

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